ただし、施設の運営者が述べていたことは大変興味深かった。例えば、そういった助成金の中には、地方でフリースクールや、子どもの居場所づくりを推進するために、助成金の申込条件に設立地域に規定があること、こういった地方限定の助成金が民間企業や財団を中心に増えていることである。また東日本大震災の影響から、沿岸部では教育環境や教育施設が充実しているという話もあった。今回は沿岸部への調査は実施していないが、具体的にどういった部分で沿岸部の方が教育環境や経済面が豊かであるのかについては、近々追加調査を行いたい。
一方の団体は塾の運営者が、不登校者の居場所が少ないため塾の時間までの時間をその地域では少なかったフリースクールとして開放しようとのことで、運営を始めた方だった。この方の場合は、個人事業主であり、塾の運営のほかにフリーランスで仕事を行っているということで、当初は完全な慈善活動としてフリースクールを開設していた。このため生徒が来ない日は、教室で自分の仕事を進め、生徒が来たら対応し、夜は塾の運営を行うとのことで、フリースクールの運営は赤字であり、利用者の利用料で運営費を賄えているわけではなかったが、経営そのものに大きな困難があるようにも見えなかった。しかし今後は、フリースクール事業のみで運営が成り立つように始動していくとのことで、どのような形で生徒集めや広報を行うか、試案している段階であった。
なお塾を併用運営していない1団体は、どのような形で運営を継続させているかというと、現在は一定程度利用者の利用料のみで運営が成り立っている施設であった。しかしこちらの団体は設立から10年以上経過しており、数年前までは提携していた学習塾や通信制高校からの家賃補助などで何とか運営を持続していた。また現在、家賃補助等はないが、施設があるビルのテナントを借りる際に、ビルのオーナーと関わりがあったことから、その他のテナントよりも安い金額で借り受け、それが現在も継続しているため、人件費やテナント代を払いながら、赤字を回避していた。とはいえ、2月、3月など生徒がフリースクールや通信制高校のサポート校を卒業するタイミングで、生徒数は減少するため、経営状態が安定せず、先行きに不安を感じることも多いようだ。また、人件費やスタッフの専門性の向上などには課題があるようで、特に時給制のスタッフとの情報共有やスタッフの心理的ケアについては課題であるとのことだった。なお、報告者は、インタビュー項目の一つに、「施設運営や団体運営を辞めたいと思ったことはあるか?」といった問いを入れていたのだが、この団体が4団体で唯一、「『辞めたい』というか、続けられるか不安と思う時期がある」といった回答があった。
東北調査(2)フリースクールの運営と地方課題

やはりフリースクールのような定義も曖昧で、公的な後ろ盾もないような団体は、保護者や利用者の中にも、フリースクールでの活動や利用についての考えや位置づけに相違があり、学習面の指導や進路支援、生活支援など、支援内容が多岐にわたりつつも、スタッフの給与面や精神面のケアなどが整備されていないため、困難を抱えやすいのであろう。
このため、ある程度の生徒数を確保し、利用料を得て運営を行っている団体にも課題があり、こういった団体も、生徒の学校復帰や進学といったフリースクールからの卒業が相次ぐと一気に経営が傾くため、一定の期間ごとに寄付の呼びかけを行いつつも、フリースクールの運営が続けられないと思うこともしばしばあるようだ。つまり生徒数を確保し、設備環境を整備し、行政と連携しているからといって、運営について困りごとがないわけではなく、時期やタイミングによっては綱渡り状態で経営を行っているのであった。
なお岩手県や青森県には、都内のようにフリースクールの利用者に対する補助金は現状ない。また不登校そのものの認知度も低く、行政の不登校者支援に対する動きもまだまだ弱いのが現状だ。このため、フリースクールに通うことで所属学校の出席認定としたり、行政と民間が協議会などを開くことはあったりしても、まだまだ支援体制は整っていない。
そして東北特有の課題としては、冬場の電気代や灯油代といった光熱費が高額になりがちなことである。金額を聞いたところ、都内の冬場の光熱費と比較すると2倍〜3倍といった金額であった。また、こちらは地方ならではの課題であるが、やはり公共交通機関が整っておらず、都市部では駅から近いことが利点とされるが、地方の場合は大型ショッピングセンターの近くや、駐車場が整備されているところなど、常用的に車を使う地域ならではの立地に対する視点があった。とはいえ、公共交通機関が整っていないために、保護者が施設まで送り迎えを行わなければならないケースが多く、共働き世帯としては、利用料だけでなく、通学距離や通学手段にも困難があるようだった。
また学生団体に話を聞いたところ、まだまだ不登校者の居場所は少なく、公立の学校現場においては、非行的な生徒が依然多いといった話があった。報告者も地方出身であったため、こういった話は親近感を覚えると同時に、報告者が中学時代を過ごしてから10数年経過していることを考えると、依然地方にはそういった事象があることに驚きを感じた。学生団体の代表者によると、非行生徒との関わりに恐怖感を感じ不登校となってしまう生徒も存在するとのことで、こういった現地の人々の肌感覚的な証言は、地方ごとの調査を行ううえで、大きな成果であった。
最後に、今回実地調査は行えなかったが、とある団体に電話とアンケート調査を実施することができた。こちらの団体は、地方のテレビ局にも取材を受けるなど、名の知られたフリースクールであったが、経営状況の悪化から、2024年3月をもって、フリースクールを閉めることを決めたことを手紙にて教えてくださった。「どこかに見切り発車で名前だけはフリースクールですが、内容は居場所の域を出ませんでした」「子どもたちのために開きましたが、大人の事情で閉じなければなりません」「課題をクリアできる時こそ開くべきフリースクールだったと猛省しかないです」と、苦渋の判断であったことが手紙から感じられた。
この団体は、以前調査依頼の際に電話をかけたところ、少子高齢化が進み、地方の財政状況は悪く、教育の地方格差があること、地方では、教育にかけられるお金はどんどん減っているといった切実な地方の現状について教えてくださった。
実地調査を振り返る施設の需要と供給の矛盾

振り返ると、この調査計画を行い実施するまでの間に、報告者が調べた限りの団体ではあるが、既に2か所のフリースクールが募集停止または閉室といった対応をとっている。こういった状況に反して小中学生の不登校者数は年々増加し、10年連続で増加、2022年度現在約30万人となっている。高校生年代の不登校者数を入れると、それ以上である。不登校者数が増加し、不登校者のための居場所や学び場が求められる中、閉室せざるを得ないフリースクールをはじめとした民間教育施設がある。これは地方に限らないことではあるものの、移動手段や不登校者の母数の違い、不登校やフリースクールに対する認知度、教育に対する価値観や多様性など、都市部と比べ、実際問題地方に行けば行くほど、教育環境の面で困難を抱えやすいことは明白であろう。
報告者は今後も、様々な地域へ実地調査に伺い、各土地の不登校者を支援する民間教育施設の現状や課題について明らかにし、官民が情報共有を行いながら協働するための支援や、不登校者の居場所に関わる地域格差を是正し、不登校者の居場所を拡充していくための研究に貢献していきたい。

本記事は『季刊 居場所研究』第1巻第1号(居場所研究会発行)より、著者の許可を得て転載しています。
▶ 第1回から読む:「東北地方の居場所を訪問して(1)不登校経験から研究者の道へ」

足名笙花 研究活動HP:
https://ashina-shoka-hp.jimdosite.com/


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